藤ノ木古墳

石棺内の副葬品が豊富で、6世紀後半の埋葬儀礼を解明する上で貴重な資料を提供し、当時の文化の国際性をも示す極めて重要な古墳。

藤ノ木古墳
(2013/06/01撮影)
Fujinoki Tumulus
国指定史跡
 円墳(直径:50m)
 大王家の一族の人物の墓【推定】
 6世紀後半築造
 大陸文化の色彩濃い未盗掘古墳

 所在地

  • 奈良盆地北部の斑鳩周辺と平群谷を含んだ地域である平群地域に属する。

大和古墳分布図(藤ノ木古墳)
  • 法隆寺寺山から南へ延びる低丘陵上に立地する。
  • 法隆寺の南大門の西方350mの水田の中にある。
  • 古墳の東南約200mには、斑鳩文化財センターがある。

藤ノ木古墳 位置図

 発掘調査

開棺前
次数 時期 内容
第1次調査 昭和60年(1985)
  • 横穴式石室と蓋の開いていない可能性の高い家形石棺を発見。
  • 家形石棺は石室の主軸に直交するよう安置されていた。
  • 玄室の右袖部に置かれている須恵器や土師器を発見。
    ⇒ 古墳時代後期の土器に、江戸時代の土師器の灯明皿が混じっていた。
    ⇒ 江戸時代まで被葬者を供養する祭祀が行われていたことが推定される。
  • 家形石棺と両側壁の間は約20cmと狭い。
  • 家形石棺の北側面と石室奥壁との間は約80cm、この空間に類例のない見事な金銅製馬具の鞍金具や馬具類、挂甲、鉄製工具、鉄鏃などおびただしい遺物が残されていた。

石室の内部
(引用:遺跡に学ぶ032『斑鳩に眠る二人の貴公子 藤ノ木古墳』)
第2次調査 昭和63年(1988)
  • 墳丘の形態の確認調査
  • ファイバースコープによる内視調査
    1. 穿孔場所は石棺の東端から中央に向かった63cm、直径8mmの穴をあけ、ボアスコープ(直径7.9mmの金属管にレンズを組み込む)と直径5.9mmのファイバースコープを挿入して観察。
    2. 石棺内に農薬の汚染を受けた可能性が高い水ががあることを確認。
      ⇒ このまま放置すると金属性遺物がなくなる可能性。
      ⇒ 遺物保護を目的とする開棺調査を実施を決定
開棺後
次数 時期 内容
第3次調査 昭和63年(1988)
[開棺調査]
  • 事前に凝灰岩製の石棺の実物大複製を製作して実験を行い、狭い石室内での開棺作業の準備。
  • 2人の被葬者とおびただしい副葬品を確認。
  • 遺骸は錦、平絹、繡、組紐などを組み合わせてつくった掛け布で覆われていた。
  • 被葬者が身に着けていた装身具
    1. 北側被葬者 : 銀製鍍金突玉、梔子玉、空勾玉、銀製垂飾金具、耳環、金銅製・銀製剣菱形飾り金具、頭部から背中にかけて続くガラス玉で構成された帽子、玉簾状の被り物
    2. 南側被葬者 : 金銅製耳環、銀製空玉首飾、手玉の可能性の高いガラス製棗玉、足首に着けられていた大型のガラス製丸玉
  • 本来身に着けるものだが遺骸安置に際して外されたもの
    1. 金銅製冠、金銅製履、金銅製半筒形品(北側)
    2. 金銅製大帯、金銅製履(南側)
  • 副えられた品々
    1. 鏡 : 銅鏡4面
    2. 大刀
    3. 魚佩 : 2枚1組で3組(=6枚)
    4. 円形飾り金具 : 掛け布に綴じ付けてあった(直径3.3cm)、200枚以上
    5. 歩揺(ほよう) : 花弁形 大(3.6cm)463枚以上、小(2.3cm)340枚以上
第4次調査 平成13年(2001)
  • 石室羨道閉塞部の調査から構築の順番は、整地→排水溝→敷石→閉塞石であることが判明。
  • 墳丘裾をめぐる周溝の発見により、直径23mの円墳であることが判明。
  • 墳丘は中世以降の徐々に削り取られて、下段の墳丘はほとんど失われている。
  • 古墳の下の遺物包含層から7世紀中頃の土器が版築の最下層から藤原宮朝(694~710)の須恵器が出土
    ⇒ 築造時期を推定する手がかりとなっている。
第5次調査 平成15年(2003)
  • 円墳であることを確認。
  • 宝積寺境内図にある大日堂の推定地からは建物遺構が検出されなかった。
第6次調査 平成18年(2006)
  • 大日堂推定地より北側の墳丘裾部からは、江戸時代末頃の陶磁器などの土器や瓦とともに焼けた壁土等が出土。
    ⇒ 安政元年(1854)の焼失記事を裏付ける。

 墳丘

  • 円墳
  • 直径50m、高さ:9m
藤ノ木古墳 墳丘
藤ノ木古墳 墳丘
(引用:『斑鳩藤ノ木古墳第二・三次調査報告書』)

 埋設施設

  • 横穴式石室、両袖式(南東に開口する)、全長:14.2m
  • 床面には礫を厚く敷き、その下には玄室内から羨道を通り、墳丘の裾まで続く排水溝を設けている。
玄室
  • 長さ:6.14m、幅:2.73m、高さ:4.32m
  • 石室の壁面の石材はほぼ垂直に積み上げられ、天井は高い。
  • 玄室奥壁に近接して奥壁と並行する形で、全面に朱が塗布された家形石棺が安置されていた。
羨道
  • 長さ:8.06m、幅:1.78m、高さ:2.5m
  • 入口付近には、須恵器・土師器が多量に置かれ、玄室奥壁と石棺の間からは、馬具や挂甲札(けいこうざね)・鉄鏃が出土した。
石棺
  • 刳抜式、凝灰岩(二上山・白色)
  • 長さ:約2.3m、幅:最大部1.3m、高さ:最大部1.54m
  • 蓋の傾斜面の長辺両側に縄掛突起が2個ずつ付く

石棺(レプリカ) (2013/06/01撮影)

 国宝

古文書・考古資料・歴史資料
名称 適用 詳細
藤ノ木古墳出土品 員数:一括 詳細ページ

 年代

  • 石室内に残されていた土器の年代から古墳時代後期、6世紀後半の造営と推定されている。

 埋葬者

  • 揺れ動く政権の中枢部に身を置いていた大王家の一族の人物であったと推定されている。
  • 『日本書紀』の死亡年と遺構、遺物の年代、2人とも男性であるという推定から
    1. 北側被葬者 : 物部守屋の推した皇位継承者候補の穴穂部皇子
    2. 南側被葬者 : 翌日に暗殺された宅部皇子
  • 穴穂部皇子は、聖徳太子の叔父である。蘇我馬子に暗殺された。

 保存・展示

  • 出土品は、奈良県立橿原考古学研究所附属博物館において保管・展示されている。
斑鳩文化財センター
斑鳩文化財センター
(2013/06/01撮影)
案内
  • 開館時間 9:00~17:00(入館は16:30まで)
  • 休館日 : 水、年末年始
  • 観覧料 : 無料(特別展開催中は有料)
  • 平成22年(2010)3月、開設。
  • 藤ノ木古墳の学習を中心に斑鳩町の文化財の調査・研究および情報発信の拠点施設。
  • 朱塗りの石棺模型や馬具や冠などの副葬品のレプリカを常時展示。
  • 石棺の内側には発掘当時の映像が映し出される。
石棺副葬品(レプリカ)
石棺副葬品(レプリカ)
展示風景
展示風景
銅鏡(レプリカ)
銅鏡(レプリカ)
(2013/06/01撮影)

 関連リンク

 案内

住所

  • 生駒郡斑鳩町法隆寺西2-1

交通

  • 法隆寺駅 ~ バス「法隆寺門前」行き終点 ~ 徒歩10分

見学

  • 時間 自由
  • 料金 無料